精巣腫瘍
せいそうしゅよう
精巣腫瘍とは?
精巣腫瘍とは精巣から発生する腫瘍を指し、人口10万人あたり1―2人とまれな疾患です。小児期や40―60歳にも小さなピークがありますが、最大のピークは20―30歳代で、この年代における悪性新生物の中では最も発生頻度が高いとされています。主な組織型は胚細胞腫瘍であり早くに転移をきたすことが知られており、悪性度が高いことも特徴です。
精巣腫瘍のリスク因子
精巣腫瘍発症のリスク因子として、幼少期に停留精巣の既往があること、精巣の発育異常があること、過去に反対側の精巣腫瘍の既往があること、などが知られています。
主な症状
精巣腫瘍では痛みを伴わない陰嚢内の腫大・硬結が主な症状です。また、腫瘍の転移による様々な症状(腫大した後腹膜リンパ節転移による腹痛や腰痛、肺転移による呼吸困難や喀血など)を契機に発見されることもあります。陰嚢内の腫大は炎症など他の病態によって生じることもありますが、痛みを伴わない硬い腫瘤を触れる場合は腫瘍の可能性が疑われます。
精巣腫瘍の診断
陰嚢内腫瘤を認めた場合、診断のためまず病歴聴取と身体診察を行います。病歴聴取では症状を自覚した時期や期間、過去に精巣に関わる病気をしたことがないかを問診します。陰嚢内が明らかに腫大していない場合にも精巣にしこりが触れないか入念に触診を行います。しこりを触れる場合には痛みや発熱がないかを確認します。もし痛みや発熱を伴う場合には精巣あるいは精巣上体の炎症が疑われます。
精巣の超音波検査
超音波検査(エコー)は精巣腫瘍の初期診断に有用であり、腫瘍の多くは内部不均一な腫瘤として描出されます。陰嚢内が腫れてくる疾患として頻度が高い陰嚢水腫の場合は精巣自体は正常大であり、その周囲に水が溜まっている像が映し出されます。
骨盤部MRI検査
触診やエコー検査で疑わしい病変があるものの大きさが小さい場合や、内部の性状から炎症との区別がつきにくい場合に、小さな病変の同定や紛らわしい病変を鑑別する目的でMRI検査を行うことがあります。
腫瘍マーカー
精巣腫瘍に対する腫瘍マーカーとして、血液検査でアルファフェトプロテイン(AFP)やベータ(β)HCG値を測定します。これらの数値が基準値を超えて高値であることは精巣腫瘍の存在を疑います。
全身CT検査
上記の検査で精巣腫瘍が確定的な場合、病期診断のため全身のCT検査を行い転移の有無を検索します。CT検査は治療後の経過を見るためにも定期的に行います。
組織診断
精巣腫瘍の診断確定のためには組織診断が必要です。精巣腫瘍が疑われた場合、可及的速やかに腫瘍のある側の精巣を手術(高位精巣摘除術)によって摘出します。摘出後に病理組織診へ提出し、腫瘍の組織型を確定させ以後の治療へと続きます。
精巣腫瘍の病期(日本泌尿器科学会病期分類)
高位精巣摘除術により胚細胞腫瘍の診断が確定した後にも腫瘍マーカーの値を測定し、CT画像検査による転移病変の検索結果を踏まえて病期(ステージ)が決定されます。
I期:転移を認めず
II期:横隔膜以下のリンパ節のみに転移を認める
IIA;後腹膜リンパ節巣が最大5cm未満のもの
IIB;後腹膜リンパ節巣が最大5cm以上のもの
III期:遠隔転移を有する
III0;腫瘍マーカーが陽性であるが、転移部位を確認し得ない
IIIA;縦隔または鎖骨上リンパ節(横隔膜以上)に転移を認めるが、その他の遠隔転移を認めない
IIIB;肺に遠隔転移を認める
IIIC;肺以外の臓器にも遠隔転移を認める
治療
- 高位精巣摘除術
精巣腫瘍が疑われた場合、まず第一に行う治療です。そけい部を切開し、そこから精索を引き出し精巣とともに摘出します。転移巣の存在が明らかな場合にも原則として患側の精巣は摘出します。 - 放射線療法
病理組織診断によりセミノーマと診断されたとき、病期によって放射線治療が選択されます。Stage I(転移を認めない)場合の予防照射、Stage IIの中でも小さな後腹膜リンパ節転移に対して放射線療法が選択されることがあります。 - 全身化学療法
Stage II以上の場合には高位精巣摘除術後に全身化学療法を行います。セミノーマ、非セミノーマとも導入化学療法(BEP療法3サイクルまたはEP療法4サイクル)を行います。また、一部のStage I非セミノーマに対してもBEP療法を2サイクル行うことがあります。 - 後腹膜リンパ節郭清術
転移を有する精巣腫瘍に対する導入化学療法後には残存する腫瘍(転移リンパ節)を手術により摘出します。摘出した残存腫瘍を病理組織診へ提出し、生きているがん細胞が残っていないかを確認します。
難治性精巣腫瘍に対する治療
導入化学療法後に腫瘍マーカーが正常域まで低下しなかった場合や後腹膜リンパ節郭清後に残存するがん細胞を認めた場合には、追加の化学療法(救済化学療法)を行います。このような難治性精巣腫瘍に対しては、抗がん剤(化学療法)や放射線療法、外科的手術を組み合わせた集学的治療を行います。2021年より保険診療として認められたがんゲノム医療の適応でもあります。